pLGGの症状及び合併症 ↓pLGGの治療による影響 ↓pLGGにおける遺伝子異常 ↓
BRAF異常~点変異と遺伝子融合~ ↓pLGGの長期経過 ↓
神経膠腫とは
- 神経膠腫(glioma)は、神経上皮腫瘍の一種で、主に神経膠細胞から発生する腫瘍の総称です1,2)。
- 神経膠腫は、年齢や発生部位によって組織型や悪性度が異なることが知られていましたが、昨今の研究により、この背景には分子遺伝学的異常が存在することが明らかとなってきました2)。
- 2021年に公表されたWHO中枢神経系腫瘍分類 第5版(WHO2021)では、網羅的遺伝子発現解析やDNAメチル化解析などによる知見が取り入れられ、腫瘍の分類が整理されました。
- WHO2021では、成人と小児では分子遺伝学的特性が大きく異なることから、神経膠腫の中核をなすびまん性膠腫は成人型びまん性膠腫と小児型びまん性膠腫に分けられ、小児型びまん性膠腫はさらに悪性度によって高悪性度膠腫と低悪性度膠腫に分類されました3,4)。
- 低悪性度神経膠腫(LGG;low-grade glioma)とは悪性度の低い神経膠腫の総称であり、小児低悪性度神経膠腫(pLGG;pediatric low-grade glioma)とは小児に発生する低悪性度神経膠腫を指します5,6)。
1) 医療情報科学研究所 編:病気がみえる vol.7 脳・神経 第2版, メディックメディア, 東京, p503-509, 2017
2) 日本脳神経外科学会・日本病理学会 編. 脳腫瘍取扱い規約 第5版. 金原出版; 2023: 2-3.
3) 日本脳神経外科学会・日本病理学会 編. 脳腫瘍取扱い規約 第5版. 金原出版; 2023: 36-43.
4) Louis DN, et al. Neuro Oncol. 2021;23(8):1231-1251.
5) Ryall S, et al. Cancer Cell. 2020;37(4):569-583.
6) Stokland T, et al. Neuro Oncol. 2010;12(12):1257-1268.
中枢神経系腫瘍の分類
(2021年WHO中枢神経系腫瘍分類 第5版[WHO2021]に基づく中枢神経系腫瘍分類)
- WHO2021では最新の分子遺伝学の知見を踏まえ、従来の星細胞系腫瘍、乏突起膠細胞系腫瘍、上衣腫、神経細胞系腫瘍が一つの大分類にまとめられました1,2)。
- 神経膠腫については、びまん性膠腫は成人型と小児型に、小児型は悪性度によってさらに低悪性度膠腫と高悪性度膠腫に分けられました1,2)。
- 本分類において、成人型/小児型は年齢ではなく、特徴的な分子遺伝学的異常の有無によって区別されます3)。
- 小児型びまん性低悪性度膠腫は、BRAF遺伝子を中心とするMAPK経路の遺伝子異常を有することが特徴で、分子遺伝学的特徴や発生部位などによって、
- びまん性星細胞腫、MYB又はMYBL1異状
- 血管中心性膠腫
- 若年者多型低悪性度神経上皮腫瘍
- びまん性低悪性度膠腫、MAPK経路異状
の4つのサブグループに分けられます2)。
■脳腫瘍取扱い規約 第5版 中枢神経系腫瘍分類
日本脳神経外科学会・日本病理学会 編. 脳腫瘍取扱い規約 第5版. 金原出版; 2023: 36-43.より作成
1) Louis DN, et al. Neuro Oncol. 2021;23(8):1231-1251.
2) 日本脳神経外科学会・日本病理学会 編. 脳腫瘍取扱い規約 第5版. 金原出版; 2023: 36-43.
3) 日本脳神経外科学会・日本病理学会 編. 脳腫瘍取扱い規約 第5版. 金原出版; 2023: 2-3.
小児低悪性度神経膠腫(pLGG)の発生部位[海外データ]
- pLGGは中枢神経系全般に発生しますが、好発部位は小脳、視交叉、大脳半球、脳幹などです1)。
- 英国の研究では、pLGGの腫瘍部位別の頻度は小脳が31.6%、視交叉/視床下部が24.6%、大脳半球が16.0%と報告されました2)。
■pLGGの腫瘍部位別の頻度2)
対象:
1997年2月~2004年4月に英国のChildren’s Cancer and Leukaemia Group(CCLG)ネットワークに登録された22施設における16歳未満の低悪性度神経膠腫患者639例
方法:
対象の年齢、性別、NF1の有無、腫瘍部位、組織型、切除度、治療内容等の因子と、その後のフォローアップ情報などを収集した。
Limitation:
本研究は一般集団コホートを用いているが、紹介バイアスを完全に排除することはできない。一部症例では生検を伴わない臨床診断が含まれており、組織型の確定に限界がある。
Stokland T, et al. Neuro Oncol. 2010;12(12):1257-1268.より作成
1) 医療情報科学研究所 編:病気がみえる vol.7 脳・神経 第2版, メディックメディア, 東京, p503-509, 2017
2) Stokland T, et al. Neuro Oncol. 2010;12(12):1257-1268.
pLGGの症状及び合併症[海外データ]
- pLGGでは、慢性的な複数の症状及び合併症が報告されています。
- 米国のデータベース研究においてpLGG患者に認められた主な症状は、頭痛/片頭痛(58%)、呼吸器感染(56%)、痛み(55%)、行動上の問題(52%)、悪心・嘔吐(48%)、主な合併症は眼筋、両眼運動、調節及び屈折異常(52%)、発作性及び突発性の運動障害(51%)などでした1)。
■pLGGにおける症状及び合併症の頻度1)
対象:
2017年1月1日~2018年6月30日に米国のOptum Market Clarityデータベースにおいて、医師記録等から小児低悪性度神経膠腫(pLGG)と確認された18歳以下の患者154例
方法:
後ろ向き観察研究。リアルワールドデータ(電子健康記録及びレセプトデータ)を用い、観察期間36ヵ月における症状及び合併症の頻度と経時的変化等を検討した。
Limitation:
本研究は電子健康記録及びレセプトデータに基づく後ろ向き解析であり、腫瘍の組織型、分子特性、腫瘍部位などの詳細な臨床情報が十分に把握できていない。対象には乳児期・幼児期の症例が十分に含まれていない可能性がある。観察期間中のデータは施設横断的に統一されておらず、一部の診療や症状が過小評価されている可能性があるほか、時間的因果関係の評価には限界がある。データは管理目的で収集されたものであり、誤分類及び情報の不正確さや欠如の問題が含まれている。
1) Zelt S, et al. Neurooncol Pract. 2024;11(5):584-592.より作成
pLGGの治療による影響[海外データ]
- 神経膠腫に対する治療には、外科的治療、化学療法を含む薬物療法、放射線治療があります1)。
- 海外の研究では、pLGG患者において外科的治療及び放射線治療は、その後の長期的経過における神経心理学的機能及び社会経済的アウトカムの低下と関連することが示唆されました2)。
■pLGGの治療による影響2)
対象:
1970~1986年に診断されたがん生存者研究(CCSS)参加者のうち、 WHO grade 1又は2の神経膠腫(毛様細胞性星細胞腫、線維性星細胞腫、上衣下巨細胞性星細胞腫、乏突起膠腫、詳細不明の星細胞腫)に対する治療を受け、2010年時点で追跡継続中で神経心理学的評価を完了した5年生存者181例及び対照集団(年齢及び性別をマッチさせたサバイバーの兄弟姉妹集団)105例
方法:
個別に標準化された包括的神経心理学的検査を実施し、言語、視空間、記憶、注意/処理速度、運動、実行の各ドメインの平均スコア及び複合神経心理学的指標(CNI)を算出した。多変量解析を用い、手術のみを行った患者、手術+放射線療法を受けた患者、対照集団の3群について、CNI、各ドメインスコアを比較した。
Limitation:
選択バイアスが生じていた。経過中の神経膠腫の診断、治療、支持療法の進歩が患者の転帰に関与した可能性がある。
Ris MD, et al. Cancer. 2019;125(17):3050-3058.より作成
1) 日本脳腫瘍学会 編. 脳腫瘍診療ガイドライン 小児脳腫瘍編 2022年版. 金原出版; 2022: 15, 119, 123-150.
2) Ris MD, et al. Cancer. 2019;125(17):3050-3058.より作成
pLGGにおける遺伝子異常[海外データ]
- pLGGではMAPK経路に関与するBRAFの遺伝子異常が代表的であり、海外の研究ではpLGG患者の35%にKIAA1549::BRAF融合が、17%にBRAF V600E変異が認められました1)。
■pLGGにおける遺伝子異常の頻度1)
2000〜2017年に診断された
pLGGの一般集団コホート(n=477)
BRAF:v-rafマウス肉腫ウイルス癌遺伝子ホモログB1
NF1:神経線維腫症1型
FGFR:線維芽細胞増殖因子受容体
MAPK:マイトジェン活性化プロテインキナーゼ
対象:
1986~2017年にカナダのThe Hospital for Sick Childrenで診断・治療された19歳未満の小児低悪性度神経膠腫(pLGG)患者976例及びSt. Jude Children’s Research Hospital、Children’s Hospital of Philadelphia、Memorial Sloan Kettering Cancer Centerにおいて稀な遺伝子変異が確認されたpLGG患者61例の計1037例
方法:
腫瘍検体を解析し、遺伝子異常(融合[Rearrangement]、SNV[Single Nucleotide Variant]など)を同定した。全体集団及びこれらの遺伝子異常別、腫瘍部位別の無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を検討した。
Limitation:
本研究は単一施設を中心とした後ろ向き観察研究であり、治療介入の均一性に欠ける可能性がある。また、一部の稀な分子異常については症例数が限られており、検証が十分でない。外部施設からの症例は各施設の検査プロトコルに依存しているため、分子解析手法の違いが結果に影響を及ぼす可能性がある。
1) Ryall S, et al. Cancer Cell. 2020;37(4):569-583.より改変
BRAF異常~点変異と遺伝子融合~
- pLGGにおけるBRAF異常は、主に点変異と遺伝子融合に分けられ、いずれもMAPK経路の活性化に関与します。変異の種類により、活性化様式や下流シグナルへの影響が異なることが知られています1)。
■pLGGにおけるBRAF異常1)
1) Yaeger R, et al. Cancer Discov. 2019;9(3):329-341.より作成
pLGGの長期経過[海外データ]
- pLGG患者における10年無増悪生存率(PFS)は、KIAA1549::BRAFなどの遺伝子融合・重複のある患者(Rearrangement群)で59.8%、BRAF V600E変異などの点変異のある患者(SNV群)で30.0%でした1)。
■pLGG患者の遺伝子異常タイプ別のPFS1)
対象:
1986~2017年にカナダのThe Hospital for Sick Childrenで診断・治療された19歳未満の小児低悪性度神経膠腫(pLGG)患者976例及びSt. Jude Children’s Research Hospital、Children’s Hospital of Philadelphia、Memorial Sloan Kettering Cancer Centerにおいて稀な遺伝子変異が確認されたpLGG患者61例の計1037例
方法:
腫瘍検体を解析し、遺伝子異常(融合[Rearrangement]、SNV[Single Nucleotide Variant]など)を同定した。全体集団及びこれらの遺伝子異常別、腫瘍部位別の無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を検討した。
Limitation:
本研究は単一施設を中心とした後ろ向き観察研究であり、治療介入の均一性に欠ける可能性がある。また、一部の稀な分子異常については症例数が限られており、検証が十分でない。外部施設からの症例は各施設の検査プロトコルに依存しているため、分子解析手法の違いが結果に影響を及ぼす可能性がある。
1) Ryall S, et al. Cancer Cell. 2020;37(4):569-583.
pLGGの症状及び合併症 ↑pLGGの治療による影響 ↑pLGGにおける遺伝子異常 ↑
BRAF異常~点変異と遺伝子融合~ ↑pLGGの長期経過 ↑